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平成27年3月1日
■目次■

・< 鶴図〈大書院南面〉>
・<玉林院の日常 『玉林院年中行事』を読む(二)> 加地 安寛
・<玉林院 餅つき会>
・<編集後記>
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【 鶴図〈大書院南面〉】

   
   

松竹梅に丹頂鶴を描き丹頂などにわずかに朱を施している。「狩野探雪図」と署名し「探雪印信」を左隅下に捺す。この障壁画を制作した寛文九年(1669)は15歳に当る。父探幽のように早熟の例もあり、探雪自身もこれより6年も早い内裏の襖絵の制作が伝えられるぐらいであるから異とすべきだはないかもしれないが、安定した構図は探幽の手になるものではないかとも考えられる。

     
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玉林院 覚え書き

   
  玉林院の日常 ―『玉林院年中行事』を読む(二)―  

檀家 加地 安寛

 今回は「玉林院年中行事」の初めにもどって、玉林院の日常を「毎日の行事」「毎月の行事」「毎年の行事」の順に読んで行こう。

一、 毎日の行事
 毎日早朝起床。客殿(本堂)行事に出頭。
 「僧衆一同懈怠(けたい)を許さず。」読経の僧衆は続いて、位牌堂、南明(なんめい)、韋駄天(いだてん)(堂舎の守護神)堂へ。

 了(おわ)って雲板(うんばん)(金属製の鳴物)が三回鳴ると仏餉(げ)(仏飯)を供える。仏餉の前に居間・知事(庶務の役僧)寮の掃除。鐘が鳴ると朝食、読経のこと。柝(たく)(拍子木)が三回打たれると、飯台座に出頭。「遅速有るべからず。」
 小柝が三回打たれると、集合して茶(さ)礼のこと。

 日禺(ぐ)(午前十時頃)中課(昼の勤行)。放参(の修行の時間になる)。
 鐘が鳴ると、晩課(夕方の読経)。

 毎朝、茶礼の前に、典座(てんぞ)方(台所の役僧)は僕末(労務の人)にそれぞれ用向きを申しつくべきこと。
 庫裏廻りの掃除、味噌醤油漬物などに気を付ける。柴小屋その他、受け持ちの個所の掃除をすること。

 茶礼の後、納所(なっしょ)方(会計の役僧)は見廻りをすること。客殿、南明、茶席、諸寮、衆寮、奥庭ならびに花畑、洞雲(とううん)(境内東南部にあった子院)、畠廻り、塔所(たっしょ)(墓地)辺、諸事注意深く点検せよ。

 毎朝茶礼の後、僧衆一同読書をすること。午後より映時(てつじ)(午後二時頃)まで、書蹟(手本か)を習う。薬石(やくせき)(夕食)の後、読書、手習いなどをする。
 五つ半時(冬は午後九時頃、夏は十時頃に)就寝。

 二と六の日は清書、三の日は詩の会。
 但し、読書は臨済録、碧巌(へきがん)集、虚堂(きどう)録(全て中国の有名な禅宗の祖師の語録)、四書五経(論語など儒学の基本書)の素読(そどく)を専(もっぱ)らにすること。

 仏祖前、朝夕の香燈花を怠ってはならない。食事、お供えの食茶菓は厳正にせよ。仏前の飾り付けは、その時の定めによって誤るな。

 米や銀の出し入れは正しくせよ。山林の施肥は最適になるようにせよ。僮僕(どうぼく)(労務者)と役僧は共に協議して、仮にも自分勝手な考えで行ってはならない。
 但し、「日に三省(せい)を要するは役人(役僧)の専ら勤めねばならない所」である。



二、毎月の行事

一日

茶礼の後で派中(法脈の近い塔頭(たっちゅう))への月初めの挨拶。塔主(たっす)が参行する。

二日

栄泉庵(えいせんあん)(今は嵯峨にある曇華院門跡に仕える最高位の尼僧の歴代)が参詣。墓地を掃除し、水桶(おけ)を出しておくこと。

四日

朝食が終わってから内外の掃除。僧衆一同は輪住(りんじゅう)所(輪番で管理する他の塔頭子院など)へ出勤すること。
この日、入浴と剃髪(ていはつ)。
但し、客殿ならびに南明そのほか仏壇回りの掃除は念入りにせよ。(開祖月忌の前日のため)
松の真(しん)(花瓶の中心に建てる松の真直な所)、草花(松に添える色花)に気を付け、香合(香入れ)に五種香を入れ、香炉の灰を直しておくこと。
献灯の所々ならびに諸寮の行灯(あんどん)を掃除しておくこと。
庭廻りの掃除、客殿の庭は納所寮(会計の役僧)から出勤せよ。
南明の庭は殿司(でんす)寮(殿舎の役僧)・侍者(じしゃ)寮(塔主給仕の役僧)から出勤せよ。
表門の内外は典座寮が勤めよ。庫裏廻りの庭は客寮(来客係の役僧)が勤めよ。
塔所廻りは役の間ならびに力者(りきしゃ)(労務者)が勤めよ。
但し、輪住所の作業は手分けして加勢すること。
浄頭(手洗い)の掃除は僧衆が順次に行うこと。札(当番の名札)がある。
浴頭(浴室)の掃除も僧衆並びに役の間および力者が順次に行うこと。輪次(当番)の札がある。
 南明の茶室に釜をかけること。(南明庵を再興した鴻池了瑛(りょうえい)の父了悟の月忌の懸釜)
 祖塔(開祖以下歴代の墓塔)と今橋(鴻池家)の塔所の樒(しきみ)の取替え。

五日

片庵(へんあん)(玉林院の開祖月岑和尚)の月忌。
添菜(てんさい)(食事に一品何かを添える)

六日

洞雲(とううん)内外の掃除。明日の茶席の準備。

七日

洞雲で茶を点てる(洞雲庵の開基桑山宗仙の月忌の懸釜)

九日

内外の掃除。諸式四日の例の通り。
浄頭、浴頭の掃除は輪番で行うこと。

十三日

祖塔、御霊屋(おたまや)(檀越であった久留米藩主有馬家の墓塔、近代になって全部撤去された)の樒の取り替え。
納所方は讃州寺(さんしゅうじ)(鷹峰の子院)の見廻り、柴の検分をすること。

十四日

内外の掃除、諸事例の通り。
但し、裏山大光道筋(みちすじ)(現在の今宮南参道の辺り)の草取り掃除をすること。

十六日

常楽(じょうらく)内外の掃除。夢幻(むげん)内外の掃除。
(常楽庵・夢幻庵はともに表門の東側にあった玉林院管下の子院)

十七日

栄泉庵塔所の掃除。

十九日

内外の掃除。諸事例の通り。

二十二日

御霊屋と今橋の塔所の樒の取り替え。

二十三日

簑(さ)庵で点茶をする。但し前日に釜の拵(こしら)え、掃除。(南明庵を再興した鴻池了瑛の月忌の懸釜)

二十四日

内外の掃除。諸事例の通り。
祖塔の樒の取り替え。
洞雲内外の掃除。
讃州塔へ拝塔。塔主が参行する。(四世仙渓和尚の月忌)

二十五日

東西一派(全国にあった玉林院の末寺)並びに諸方に用書(会計書類)を発送する。

二十六日

両家(鴻池)の支配人が来院し、月勘定(決算)に立ち合う。

二十七日

諸記録を確認し、漏れなく書き入れておくこと。
夢幻内外掃除、常楽も同じ。

二十九日

内外の掃除。諸事、常と同様。
但し、大の月は晦日に行う。
月末の支払い。但し判取(はんとり)帳(領収帳)は翌月勘定の節、両家に点覧(てんらん)を頼むこと。
 花畑に二度地味(肥料)を施すこと。毎月の上旬と下旬に。
 土蔵・米蔵・味噌部屋・柴小屋などの見廻り。毎月五度。輪住所も同様。納所方勤務。
 四九掃除の節、所々に掃き寄せた木の葉を風呂焚き、行水(ぎょうずい)の湯などに使う。浴頭の当番の勤め。

 以上が「月次行事」の大要であるが、それを毎月の定例行事としてまとめると次のようになる。

 

院内外の掃除・剃髪・入浴 四の日・九の日
洞雲庵の掃除       六日・二十四日
常楽庵・夢幻庵の掃除  十六日・二十七日
栄泉庵塔所の掃除      二日・十七日
祖塔の樒の取替え 四日・十三日・二十二日
御霊屋の樒の取替え   十三日・二十二日
鴻池塔所の樒の取替え    四日・二十二日
手習の清書        二の日・六の日
詩の会              三の日
南明庵懸釜     四日(鴻池了悟月忌)
洞雲庵懸釜     七日(桑山宗仙月忌)
簑庵懸釜    二十三日(鴻池了瑛月忌)

仏前の花暦
一月   柳・梅・椿
二月   連翹(れんぎょう)・山吹
三月   桃・八十八夜菊・仙台萩・えにしだ・金盞(せん)花・夏菊
四月   芍薬(しゃくやく)・藤・杜若(かきつばた)・うつぎ・卯の花
五月   花菖蒲(しょうぶ)・つくも
六月   蓮・桧(ひ)扇・だんどく・撫子(なでしこ)
七月   萩・木とう・日々(にちにち)草・紫苑(しおん)
八月   甲(かぶと)菊・紐(ひも)菊・弁慶草
九月   中菊・小菊
十月   水仙・椿・寒菊
十一月  黒もじ・南天・川柳
十二月  檀香梅(だんこうばい)・葉牡丹

三、毎年の行事

 毎年の行事は、紙面の都合もあり、とりあえず項目のみに止める。


一月

・元旦行事・七草粥
・檀信徒・末寺への年頭使発遣。年頭書返翰(書式指示)
・大般若会(だいはんにゃえ)祈祷と宝札(ほうさつ)配布(十四日)

二月

・所有山林の道普請(ぶしん)(下旬)
・合羽(かっぱ)・傘(からかさ)・下駄の取り調べ(下旬)
・庭の敷松葉(しきまつば)の片付け(下旬)

三月

・僕末の交代(四日)
・有馬家参勤交替の年は伏見本陣へ参向(下旬)
・茶室の炉片付けと風炉(ふろ)の準備(下旬)
・燃料(柴・割木(わりき))の買い入れ、下半期分(下旬)

四月

・開祖 月岑和尚忌 (五日)
・蕨(わらび)・筍(たけのこ)の贈与(有馬家など)

五月

・味噌・醤油用の麦・大豆買い入れ(下旬)
・仏花の挿芽(さしめ)(梅雨中)

六月

・檀信徒への暑中見舞(土用のはじめ。杉曲物(まげもの)入揚麩(あげふ)持参)
・麦味噌の仕込み(初旬)
・醤油の仕込み(初旬)
・薪(たきぎ)納豆・若狭(わかさ)納豆の調製
・漬物の注意(土用中)
・伝来の什物(じゅうもつ)・文書などの曝涼(ばくりょう)(虫干し、下旬)

七月

・客殿の縁にて水施餓鬼(せがき)
・燈籠は十六日まで終夜点す(一日〜十六日)
・盂蘭盆会(うらぼんえ) 客殿に飾物・献備(けんび)(お供え)
・塔所読経(十三日〜十五日)
・牡丹餅(ぼたもち)献備(十四日)
・索麺(そめん)献備・辛子(からし)柚子(薬味)(十五日)
・白蒸(しらむし)献備 蓮の葉敷いて(十六日)
・讃州寺地蔵会(二十四日)
・松茸山に竹垣設置(下旬)

八月

・開基曲直瀬正琳(まなせしょうりん)法印忌(六日)・名月の祝(十五日)

九月

・茶室の開炉(初旬)
・燃料の買い入れ、上半期分(下旬)
・傘、提灯(ちょうちん)の取り調べ(下旬)
・時候見舞に檀信徒家へ松茸持参(下旬)

十月

・庭の敷松葉(上旬までに)
・北山から年貢米(ねんぐまい)納入(二十四日)
・庭の植木などに地味(下旬)
・大豆、塩、麹など買入れ、赤味噌仕込み用(下旬)

十一月

・田方(たかた)から年貢米納入(上旬)
・漬物、赤味噌仕込み(上旬)
・鴻池へ元入(もといれ)銀(出資金)納入(二十五日)
・鴻池から為替(かわせ)到来(二十八日)
・寒中見舞として檀信徒家へ豆腐持参(入寒初期)

十二月

・畑方(はたかた)から年貢、地子(ちし)の年貢納入(一日)
・本山へ給米(きゅうまい)納入、山内(さんない)へ香典(三、四日)
・大徳寺開山 大燈国師忌本山出頭(二十二日)


後書 「玉林院年中行事の意味」

 むかし、唐の百丈懐海(えかい)禅師(720‐814)は、子弟のために修行生活の規定を作られた。有名な「百丈清規(しんぎ)」である。その後も多くの「清規」がある。古来、禅僧は、それを師父の慈悲として受持し、弁道のために実践して来られたと聞く。
 修行上の規定を単なる個性の束縛とみるならば、それはそれまでである。
 「清規」の規制は、むしろ普遍性に参じる新鮮な個性を目覚めさせ、自由闊達な自己を目指す修行者のための階梯(かいてい)となる。

 茶の湯の稽古を例に取ろう。
 流儀によって多少の違いはあるであろうが、例えば表千家流では、茶室に入る時、左足で茶道口のしきいを越える。なぜ「左足」なのか。それが「習い」だからである。どちらの足から入ってもよいではないかとも考えられる。しかし、左足から入ることで、何十年でも稽古するのである。

 右足から入らないように覚えるだけではない。左足からとは教えられても、「どのような気もち」で、「どのように」左足を進めるかは、稽古人の「工夫」である。「鍛錬」である。「左足から」というのは、いわば「創造」のための契機である。

 即中斎宗匠はその著『お茶の四季』の中で、「茶道というのも、結局は人間が人間らしくあるための道なのです。」と述べておられる。

 祖師が歩まれる。その後をお弟子たちが歩む。さらにその後を、祖師や先輩を遙かに望みながら後の修行者が歩む。そこに道ができる。それは日々自らの「身心」をととのえる道なのである。この時、「清規」の一項一項は一人一人の修行者のための祖師の老婆心切として、子弟末孫の心にしみとおる。

 「玉林院年中行事」は、単に寺院経営のための備忘録ではない。
 その内容を年々日々懈怠(けたい)なく「つとめる」ことが玉林院の修行課程に他ならない。

 在家にあっても同様であろう。
 心して日々の職務につとめる時、その課程の連続がそのままに、まぎれもなくその人の一生となるのである。

 「玉林院年中行事」は実に、「大徳寺玉林禅院」の「清規」であった。(了)

     
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玉林院 餅つき会

   
 

 日頃より寺にご奉仕して下さっている皆様から餅つき会のご提案があり、年寄せる12月28日、餅つきを行いました。
 当日はあいにくの曇り空の中でしたが、和尚のつき始めの後、参加者が交替で餅をつき大きな鏡餅を作り、本尊様にお供えしました。その後、十臼ほど餅つきをして丸めた餅を皆でおいしくいただきました。
 今回初めての試みで行いましたが、今年は皆様の参加をお待ちしております。(寺)

 
     
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編集後記

   
 

◆昨年の秋より軒先に吊られた和尚手作りの干し柿。冬の寒さにお腹をすかせた雀たちがついばんでも和尚は取り込みもせず、その様子を喜んでおりました。◆年始の大雪に本堂もすっぽり雪の中。その美しさに歓声を上げつつ寒さに震えた冬でしたが、今では、境内は春の香りで一杯です。……人生も又然り……。(雅)
◆元日の昼から積もりだした雪を見て、ある歌を思い出しました。「新しき年の始めの初春の今日降る雪のいや重け吉事」この歌は、大伴家持が新年祝賀の宴で詠んだもので、「新年最初の日である今日は立春、しかも雪が降っている(新年に降る雪は豊作を意味する前兆でした)。今年は良いことが重なりますように」という意味です。◆「大伴家持が詠んだ時も、こんな風に雪が降ってたんやろなあ」としみじみ思いました。しかし翌朝、30センチもの雪を前に、感慨はもろくも崩れ去りました。いつもより雪が多かった、今年の冬でした。(幸)

 
     
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